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岐阜地方裁判所 平成10年(行ウ)3号 判決 2000年12月21日

原告

A株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

森山文昭

被告

高山税務署長 東正義

右指定代理人

瀬戸茂峰

小林孝生

川口直樹

伊与田久

西尾一義

安藤正人

梅田弘志

松田清志

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して平成七年七月七日付けでした次の各処分のうち、別表一の1ないし5、二、三の1、2、四記載の「異議申立」欄の金額を超える部分をいずれも取り消す。

一  原告の平成二年ないし平成五年の各四月期の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分

二  原告の平成六年四月期の法人税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

三  原告の平成三年四月期の法人臨時特別税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分

四  原告の平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分

五  原告の平成三年ないし平成五年の各七月分及び各一二月分の源泉所得税の各納税告知処分並びに不納付加算税の各賦課決定処分

第二事案の概要

本件は、原告が、平成二年ないし平成六年の各四月期(以下「本件係争各事業年度」という。)の法人税、平成三年四月期の法人臨時特別税並びに平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税について、それぞれ確定申告をしたところ、被告が、月々の役員報酬の一部が現実には支給されておらず、盆と暮れに役員に対して支給された金員は法人税法三五条四項の「賞与」に当たるから、同条一項により損金の額に算入することは認められないなどとして、右の法人税、法人臨時特別税及び法人特別税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分(平成六年四月期の法人税については、過少申告加算税の賦課決定処分を含む。以下、法人税の右各処分を「本件法人税各処分」と、法人臨時特別税の右処分を「本件法人臨時特別税処分」と、法人特別税の右各処分を「本件法人特別税各処分」とそれぞれいい、これらの処分を併せて「本件法人税等各処分」という。)をするとともに、平成三年ないし平成五年の各七月分及び各一二月分(以下「本件係争各月分」という。)の源泉所得税の各納税告知処分並びに不納付加算税の各賦課決定処分(以下、源泉所得税の右各処分を「本件源泉所得税各処分」といい、本件法人税等各処分と本件源泉所得税各処分を併せて「本件各処分」という。)をしたのに対し、原告が、被告の本件各処分は、損金の額に算入すべき役員報酬を損金不算入の役員賞与に当たるとした点に違法があるなどとして、その取消しを求めた事案である

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は、佃煮、瓶詰、缶詰の製造並びに委託加工及び販売等を目的とする株式会社である。

2  本件訴訟に至る経緯

(一) 確定申告

原告は、本件係争各事業年度の法人税について、それぞれ別表一の1ないし5の各「確定申告」の項中の年月日に、同項中の「所得金額」及び「納付すべき税額」欄記載のとおりの内容で、確定申告をした。

また、原告は、平成三年四月期の法人臨時特別税について、別表二の「確定申告」の項中の年月日に、同項中の「課税標準法人税額」及び「納付すべき税額」欄記載のとおりの内容で、確定申告をした。

そして、原告は、平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税について、それぞれ別表三の1、2の各「確定申告」の項中の年月日に、同項中の「課税標準法人税額」及び「納付すべき税額」欄記載のとおりの内容で、確定申告をした。

(二) 本件各処分

被告は、平成七年七月七日付けで、原告に対し、原告の右法人税について、それぞれ別表一の1ないし5の各「更正及び賦課決定」の項中の「所得金額」、「納付すべき税額」及び「重加算税額」(平成六年四月期の法人税については、「過少申告加算税額」も含む。)欄記載のとおりの内容で、本件法人税各処分をした。

また、被告は、右同日付けで、原告に対し、原告の右法人臨時特別税について、別表二の「更正及び賦課決定」の項中の「課税標準法人税額」、「納付すべき税額」及び「重加算税額」欄記載のとおりの内容で、本件法人臨時特別税処分をした。

そして、被告は、右同日付けで、原告に対し、原告の右法人特別税について、別表三の1、2の「更正及び賦課決定」の項中の「課税標準法人税額」、「納付すべき税額」及び「重加算税額」欄記載のとおりの内容で、本件法人特別税各処分をした。

さらに、被告は、右同日付けで、原告に対し、本件係争各月分の源泉所得税について、別表四の「納税告知及び賦課決定」の項中の「源泉所得税の額」及び「不納付加算税額」欄記載のとおりの内容で、本件源泉所得税各処分をした。

(三) 異議申立て

原告は、平成七年九月五日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、同年一一月三〇日付けで、これを棄却する旨の決定をした。

なお、原告は、被告に対し、原告の平成六年四月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分に対する異議申立てはしていない。

(四) 審査請求

原告は、右決定を不服として、同年一二月一八日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成九年一二月一五日付けで、これを棄却する旨の裁決をした。

なお、原告は、国税不服審判所長に対し、原告の右法人税の過少申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求はしていない。

(五) 本訴の提起

原告は、右裁決を不服として、平成一〇年三月五日、本件訴えを提起した。

二  本件各処分において算出された金額に関する被告の主張

1  本件法人税各処分について

(一) 更正処分について

(1) 申告所得金額

原告の本件係争各事業年度の申告所得金額は、別表五の「申告所得金額」欄記載のとおりである。

平成二年四月期 一億一七一八万五九四七円

平成三年四月期 一億二八七四万九五六九円

平成四年四月期 一億一七七一万五九八〇円

平成五年四月期 一億〇四五五万〇四三四円

平成六年四月期 六四六一万〇六五六円

(2) 加算項目

ア 役員報酬の水増し計上

原告は、本件係争各事業年度において、代表取締役甲、専務取締役乙、常務取締役丙並びに法人税法上のみなし役員丁及び戊(以下甲、乙、丙、丁及び戊を併せて、「各役員」という。)に対し、役員報酬額として、別表六の「合計金額」欄記載の各金額を損金の額に算入した上、確定申告をしていた(以下、本件係争各事業年度における右各金額を「確定申告に係る役員報酬額」という。)。

ところが、原告が実際に支給した役員報酬額は、別表七の1ないし5の本件係争各事業年度合計の項中の「合計金額」欄記載の各金額のとおりである(以下、本件係争各事業年度における右各金額を「実際の役員報酬額」という。)。

したがって、確定申告に係る役員報酬額から実際の役員報酬額を控除した金額は次のとおりとなり(計算の過程は別表八のとおり。)、これらは、水増し役員報酬額として、本件係争各事業年度の損金の額に算入することは認められない。

平成二年四月期 一五五〇万〇〇〇〇円

平成三年四月期 一四六一万〇〇〇〇円

平成四年四月期 一五一三万二〇〇〇円

平成五年四月期 一四四三万二〇〇〇円

平成六年四月期 二三八九万一〇〇〇円

イ 給料手当の架空計上

原告が平成四年及び平成五年の各四月期に給料手当として損金に算入した金額のうち、次の金額は、右各期末に役員報酬勘定を調整するために計上された架空の給料手当であるから、損金の額に算入することは認められない。

平成四年四月期 二七万〇一四二円

平成五年四月期 二九七万七三二四円

ウ 受取利息の計上漏れ

B銀行高山支店の甲(口座番号・三一〇四九八八)、乙(口座番号・三一〇五〇一一)、丙(口座番号・三一〇五〇〇三)及び丁(口座番号・三一〇四九九六)名義の各普通預金口座は原告に帰属するものであるから、平成六年四月期における右各口座の受取利息を益金の額に算入する。

平成六年四月期 四三〇〇円

エ 棚卸資産の計上漏れ

平成六年四月期末の棚卸資産に計上漏れがあったため、次の金額を平成六年四月期の益金の額に算入する(原告も争わない。)。

平成六年四月期 一九一万三九〇九円

オ 雑収入計上漏れ

原告が高山公共職業安定所から平成六年四月一八日付けで通知を受けた特定休職者雇用開発助成金は、計上漏れとなっていたため、次の金額を平成六年四月期の益金の額に算入すべきである(原告も争わない。)。

平成六年四月期 五八万九二七五円

カ 交際費等の損金不算入額

原告は、平成六年四月期に、新社屋落成披露に関する費用として、得意先に配布した記念品費用及び得意先を招待して開催したパーティー費用を損金の額に算入したが、これらは租税特別措置法六一条の四に規定する交際費の額に該当することから、次の金額は損金の額に算入することは認められない(原告も争わない。)。

平成六年四月期 四〇八万三二八二円

(3) 減算項目

ア 給料手当として損金算入額

原告が平成六年四月期末に役員報酬勘定を調整するために給料手当から減算した次の金額は、減算する理由がないから、平成六年四月期の給料手当として損金の額に算入する。

平成六年四月期 八一万七二〇二円

イ 雑損失の損金算入額

原告が平成六年四月期に計上していた保険積立額のうち、次の金額は過大であることから、雑損失として損金の額に算入する(原告も争わない。)。

平成六年四月期 二三万三三七〇円

ウ 事業税の損金算入額

本件法人税各処分により、前事業年度の所得金額が増加することに伴って増加する事業税を、それぞれ損金の額に算入する。

平成三年四月期 一八六万〇〇〇〇円

平成四年四月期 一五三万〇〇〇〇円

平成五年四月期 一六六万四七〇〇円

平成六年四月期 一八八万九四〇〇円

(4) 所得金額

原告の本件係争各事業年度の所得金額は、別表五のように、右(1)の原告の申告所得金額に、(2)の各項目を加算し、(3)の各項目を減算したものであり、結局、次のとおりとなる。

平成二年四月期 一億三二六八万五九四七円

平成三年四月期 一億四一四九万九五六九円

平成四年四月期 一億三一五八万八一二二円

平成五年四月期 一億二〇二九万五〇五八円

平成六年四月期 九二一五万二四五〇円

そうすると、被告の主張に係る所得金額は、いずれも別表一の1ないし5の各「更正及び賦課決定」の項中の「所得金額」と同額であるから、更正処分は適法である。

(二) 重加算税の賦課決定処分について

原告は、月々の役員報酬の一部を現実には支払っていないにもかかわらず、平成二年四月期から平成六年四月期の途中(平成五年五月分)までは、仮受金又は預り金(以下「仮受金等」という。)として経理処理した上、これを原資として役員に対して簿外の賞与を支給していた。また、原告は、平成四年及び平成五年の各四月期においては、架空の給与手当を加算(平成四年及び平成五年の各四月期の給料手当の架空計上に相当する。)又は減算(平成六年四月期の給料手当として損金算入額に相当する。)して、役員報酬勘定を調整していた。さらに、平成六年四月期の途中(平成五年六月分)からは、原告の保管又は管理に係る各役員名義の普通預金口座に水増し報酬額を入金することにより、あたかも水増しした役員報酬額を役員に対して支給していたかのように仮装して、租税の補脱を図り、かつ、所得を過少に申告していたものである。

原告の右行為は、国税通則法六八条一項に規定する重加算税を賦課する要件に該当するものであり、同項に基づき、本件係争各事業年度の法人税の重加算税の額を計算すると、次のとおりとなる。

平成二年四月期 一九五万三〇〇〇円

平成三年四月期 一六七万三〇〇〇円

平成四年四月期 一七七万四五〇〇円

平成五年四月期 二〇六万五〇〇〇円

平成六年四月期 三〇二万七五〇〇円

そうすると、被告の主張に係る重加算税の額は、いずれも別表一の1ないし5の各「更正及び賦課決定」の項中の「重加算税額」と同額であるから、重加算税の賦課決定処分も適法である。

(三) 過少申告加算税の賦課決定処分について

平成六年四月期に関しては、別表五の加算項目のうち、棚卸資産の計上漏れ、雑収入計上漏れ及び交際費等の損金不算入額に基因する過少申告について、国税通則法六五条四項に規定する過少申告加算税を賦課しない正当な理由があるとは認められないことから、同条二項に基づいて平成六年四月期の過少申告加算税の額を計算すると、次のとおりとなる。

平成六年四月期 一六万七〇〇〇円

そうすると、被告の主張に係る過少申告加算税額は、別表一の5の「更正及び賦課決定」の項中の「過少申告加算税額」と同額であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

2  本件法人臨時特別税処分について

(一) 更正処分について

平成三年四月期の法人臨時特別税に係る課税標準法人税額は、原告提出の法人臨時特別税に係る確定申告書記載の基準法人税額四七五二万〇八七五円と法人税更正処分に基づく法人税の増加額四七八万一二五〇円の合計額から三〇〇万円を差し引く(一〇〇〇円未満の端数切捨て)ので、次のとおりとなる。

平成三年四月期 四九三〇万二〇〇〇円

そうすると、被告の主張に係る課税標準法人税額は、別表二の「更正及び賦課決定」の項中の「課税標準法人税額」と同額であるから、更正処分は適法である。

(二) 重加算税の賦課決定処分について

国税通則法六八条一項に基づき、平成三年四月期の法人臨時特別税の重加算税の額を計算すると、次のとおりとなる。

平成三年四月期 三万八五〇〇円

そうすると、被告の主張に係る重加算税の額は、別表二の「更正及び賦課決定」の項中の「重加算税額」と同額であるから、重加算税の賦課決定処分も適法である。

3  本件法人特別税各処分について

(一) 更正処分について

平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税に係る課税標準法人税額は、原告提出の法人特別税に係る確定申告書記載の基準法人税額四三三八万三一二五円及び三八四四万六二五〇円と法人税更正処分に基づく法人税の増加額五二〇万二三七五円及び五九〇万四三七五円の合計額からそれぞれ四〇〇万円を差し引く(一〇〇〇円未満の端数切捨て)ので、次のとおりとなる。

平成四年四月期 四四五八万五〇〇〇円

平成五年四月期 四〇三五万〇〇〇〇円

そうすると、被告の主張に係る課税標準法人税額は、いずれも別表三の1、2の各「更正及び賦課決定」の項中の「課税標準法人税額」と同額であるから、更正処分は適法である。

(二) 重加算税の賦課決定処分について

国税通則法六八条一項に基づき、平成三年及び平成四年の各四月期の法人特別税の重加算税の額を計算すると、次のとおりとなる。

平成四年四月期 四万五五〇〇円

平成五年四月期 四万九〇〇〇円

そうすると、被告の主張に係る重加算税の額は、いずれも別表三の1、2の各「更正及び賦課決定」の項中の「重加算税額」と同額であるから、重加算税の賦課決定処分も適法である。

4  本件源泉所得税各処分について

(一) 源泉所得税納税告知処分について

原告は、平成三年ないし平成五年の各七月及び各一二月に、役員に対して役員賞与をそれぞれ支給していたにもかかわらず、右役員の役員賞与に係る源泉所得税額を徴収・納付していないから、当該賞与に対する源泉所得税額を所得税法一八三条一項、一八六条一項の規定に基づき計算すると、次のとおりとなる。

平成三年 七月期分 一三一万七〇三二円

平成三年一二月期分 二一二万四〇九四円

平成四年 七月期分 一三七万七三四一円

平成四年一二月期分 二二四万九八〇九円

平成五年 七月期分 一五〇万二一〇一円

平成五年一二月期分 二四三万八七一五円

そうすると、被告の主張に係る源泉所得税の額は、いずれも別表四の「納税告知及び賦課決定」の項中の「源泉所得税の額」と同額であるから、更正処分は適法である。

(二) 不納付加算税の賦課決定処分について

当該賞与に対する源泉所得税額を法定納期限までに納付されなかったことについて、国税通則法六七条一項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同項に基づいて不納付加算税の額を計算すると、次のとおりとなる。

平成三年 七月期分 一三万一〇〇〇円

平成三年一二月期分 二一万二〇〇〇円

平成四年 七月期分 一三万七〇〇〇円

平成四年一二月期分 二二万四〇〇〇円

平成五年 七月期分 一五万〇〇〇〇円

平成五年一二月期分 二四万三〇〇〇円

そうすると、被告の主張に係る不納付加算税額は、別表四の「納税告知及び賦課決定」の項中の「不納付加算税額」と同額であるから、不納付加算税の賦課決定処分も適法である。

三  水増し役員報酬額等に関する被告の主張

1  本件預託金制度の導入に至る経緯等について

これまでみてきたように、原告は、前記二1(一)(2)アのとおり、本件係争各事業年度において、各役員に対する役員報酬額を確定申告に係る役員報酬額とし、同(2)イのとおり、平成四年及び平成五年の各四月期において、架空の給料手当を加算し、又は、同(3)アのとおり、平成六年四月期において、給料手当を減算して、役員報酬勘定を調整し、また、同(2)ウのとおり、平成六年四月期において、各役員名義の普通預金口座の受取利息を計上漏れするなどしていた。

原告の右各行為は、原告の主張によると、原告は、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、別表九の各「支給明細書役員報酬額」欄記載の額の役員報酬(以下「支給明細書役員報酬」という。)をいったん支給するが、後述の本件預託金制度に従い、各役員から、別表九の各「給料明細書役員報酬額」欄記載の額の役員報酬(以下「給料明細書役員報酬」という。)を超える額(別表九の各「差額」欄記載の額。以下「本件差額」という。)を任意に預かった上、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、各役員に対し、本件差額をまとめて支給していたところ、原告が、各役員に対する役員報酬額として、支給明細書役員報酬の額を損金の額に算入すべきであると解していたため、各役員に対して毎月支給していた金員だけでなく、盆と暮れに支給した金員も、法人税法三五条四項の「賞与」に当たらず、損金の額に算入していたことによるものである。

原告は、本件預託金制度の導入に至る経緯等に加えて、これまでにも役員からの請求に基づき、盆と暮れ以外に預託金が払い戻された事実があること、原告では、本件預託金制度とは別に、利益金処分としての役員賞与の支給も現実に行われていることなどを指摘して、本件預託金制度を正当化しようとする。しかし、右のいずれも、本件預託金制度が導入されたとする取締役会決議の存在自体が疑われたり、盆と暮れ以外における預託金の払戻しの事実そのものが根拠のないものであったり、また、利益金処分としての役員賞与の支給があるからといって、盆と暮れに支給された金員が直ちに「賞与」に当たるとはいえないなど、原告の右の指摘は根拠がなく、本件預託金制度それ自体が存在しないか、又は、仮に右制度が存在するとしても、右取締役会決議に従って運用されていないものというべきである。

2  本件預託金制度について

しかも、原告が盆と暮れに各役員に対して支給した金員は、次の(一)ないし(四)の理由からしても、法人税法三五条四項の「賞与」に当たり、同条一項により損金の額に算入することは認められないというべきである。

(一) 原告は、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、手書きの給料支払明細書を交付していたところ、右明細書には、別表九の給料明細書役員報酬額のみが記載され、それ以外の役員報酬の額は記載されておらず、しかも、役員報酬額の一部が預託されている旨の記載もない。

原告は、各役員について、コンピューター処理の給料支給明細書を作成していたところ、右明細書には、別表九の支給明細書役員報酬額が記載されており、これが各役員の報酬月額であると主張するが、手書きの給料支払明細書からは、各役員が預託していたとされる金額や、支給明細書役員報酬額をうかがい知ることができないのであり、これらの事実にかんがみると、各役員の報酬月額は給料明細書役員報酬の額であって、支給明細書役員報酬の額はこれに当たらないというべきである。

この点、原告は、手書きの給料支払明細書は、各役員が本件差額を任意に支払った後、実際の手取り額を確認するために便宜的に作成されていたものにすぎないと主張する。

しかし、手書きの給料支払明細書の存在意義が右目的のためであれば、コンピューター処理の給料支給明細書に預り金の項目を設ければ足りるのであって、手書きの給料支払明細書を別に作成する必要はないはずである。また、そもそも手書きの給料支払明細書が、コンピューター処理の給料支払明細書のほかに存在し、しかも、この両者が、同じ給料の支給に関するものでありながら、その内容が異なること自体が不自然であり、このことは、まさに原告が支給明細書役員報酬の額のとおり役員報酬を支給していたかのようにして、盆と暮れに各役員に対して支給した金員が、法人税法三五条四項の「賞与」に当たらないようにするための仮装にほかならないというべきである。

(二) 原告では、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面が作成されているところ、これによれば、原告代表者は、従業員だけでなく、各役員についても、賞与の額を査定していることが認められる。

このように、原告代表者が各役員の賞与の額を査定しているということは、盆と暮れに各役員に対して支給した金員が賞与であることを示すものである。

この点、原告は、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面は、原告代表者が各役員の賞与の額を査定したものではなく、本件差額の積立額に各役員の出張旅費を上乗せしたものにすぎないと主張する。

しかしながら、出張旅費が交際費や土産代等の実費弁償のためのものであれば、端数のない金額となることは通常あり得ないし、また、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面では、従業員の出張旅費は何ら考慮されておらず、役員と従業員とで出張旅費の取扱いを違える理由もないのであるから、原告の右主張は不自然であり、信用することができない。

(三) 盆と暮れに各役員に対して支給した金員の額は、各役員が毎月預託していたとされる金額と一致しておらず、役員によっては、盆と暮れに、本件差額の積立額を超える額の金員を支給されていた者もいれば、逆に、右積立額に満たない額の金員しか支給されなかった者もいる。

このように、原告が毎月各役員から本件差額を任意に預かっていたというようなことはなかったというべきである。

(四) 原告は、盆と暮れに各役員に対して金員を支給するに際し、各役員に対し、「賞与」と印字された支給明細書を交付している。

これは、原告が右金員を賞与と認識していたことを端的に示すものである。

四  原告の反論

1  本件預託金制度の導入に至る経緯等について

原告では、従前、役員報酬について、あらかじめ取締役会で役員別支給額を定めた上、これを各月ごとに役員に対して支給していたところ、盆と暮れの役員賞与の支給時にまとめて役員報酬を受け取りたいとの役員の要望と、いざというときの資金繰りの上でも便宜であるとの会社経営上の要請により、昭和五二年一二月一〇日の取締役会において、役員報酬一部預託制度(以下「本件預託金制度」という。)が取り決められた。

そして、原告は、本件預託金制度に従い、本件係争各事業年度の各月において、各役員から、本件差額を任意に預かった上、平成二年四月期から平成六年四月期の途中(平成五年五月分)までは、これを仮受金等に計上して、社内に留保し、平成六年四月期の途中(平成五年六月分)からは、B銀行高山支店の各役員名義の普通預金口座に入金して、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、各役員に対し、本件差額の積立額をまとめて支給していた。

このように、原告が盆と暮れに役員に対して支給した金員は、利益を上げた役員の功労に報いるために、利益の一部から支給されたのではなく、役員の委任事務の対価として、あらかじめ株主総会の決議で定められた限度額の範囲内で支給されたものである。すなわち、右金員は、毎月、各役員から本件差額を任意に預かった上、盆と暮れに、各役員に対してまとめて払い戻しているというにすぎないものである。

しかも、右金員は、文字どおり、各役員からの預り金であって、これまでにも甲、乙及び丙ら役員から払戻しの請求があったため、原告は、盆や暮れでなくても、いつでも右払戻しに応じていたものである。

この点、被告は、右金員は、法人の利益を圧縮するために役員報酬を仮装して支給されたものであるかのように主張するが、原告では、本件預託金制度とは別に、利益金処分としての役員賞与の支給も現実に行われているのであり、このことからしても、本件預託金制度が法の潜脱を目的としたものでないことは明らかである。

以上によれば、右金員は、法人税法三五条四項の「賞与」に当たらず、損金の額に算入すべきである。

2  本件預託金制度について

被告は、前記三2(一)ないし(四)の理由を挙げて、原告が盆と暮れに各役員に対して支給した金員は、法人税法三五条四項の「賞与」に当たり、同条一項により損金の額に算入することは認められないと主張するが、以下のとおり、いずれも理由のないものである。

(一) 被告は、原告が、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、手書きの給料支払明細書を交付していることをもって、各役員の報酬月額は、給料明細書役員報酬の額であり、支給明細書役員報酬の額ではないと主張する。

しかし、原告は、あらかじめ取締役会で定められた支給基準に従い、コンピューター処理の給料支給明細書を作成するとともに、支給明細書役員報酬の額に基づき、各役員の源泉所得税及び社会保険料を納付しているのであって、手書きの給料支払明細書は、各役員が本件差額を任意に支払った後、実際の手取り額を確認するために便宜的に作成されていたものにすぎない。

また、被告は、手書きの給料支払明細書が、コンピューター処理の給料支給明細書のほかに存在し、しかも、この両者の内容が異なること自体が不自然であるなどと主張する。

しかし、これは、手書きの給料支払明細書とコンピューター処理の給料支給明細書とで、源泉所得税の計算や端数預金の金額が違ってくるなどの理由によるものであり、両者が異なるものとして存在することには合理的な根拠があるというべきである。

以上によれば、被告の右各主張はいずれも失当である。

(二) 被告が指摘するとおり、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面には、従業員だけでなく、各役員についても、金額が記載されている。

しかし、これは、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面が、原告代表者が各役員の賞与の額を査定したものではなく、本件差額の積立額に各役員の出張旅費を上乗せしたものにすぎないからである。

この点、被告は、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面では、従業員の出張旅費は何ら考慮されておらず、役員と従業員とで出張旅費の取扱いを違える理由はないと主張する。

しかし、これは、原告では、従業員が主張することはほとんどなかったため、従業員については、盆と暮れに出張旅費を支給することが制度化されていなかったからにすぎない。

したがって、被告の右各主張もいずれも失当である。

(三) 盆と暮れに各役員に対して支給した金員の額が、各役員が毎月預託していた金額と完全に一致するといえないことは、被告主張のとおりである。

しかし、これは、本件差額の積立額を超える額の金員を盆と暮れに支給されていた役員についていえば、当該役員が出張旅費を加算されていたにすぎないからであるし、逆に、右積立金に満たない額の金員しか盆と暮れに支給されなかった役員についていえば、当該役員が原告の商品を自家消費した分を差し引いたことなどによるものである。

もっとも、盆と暮れに各役員に対して支給した金員の額は、結果的には、預託金額にほぼ一致しているのであって、多少の誤差があるからといって、本件預託金制度の本質が変わってしまうものではないというべきである。

(四) 原告が、盆と暮れに金員を支給するに際し、各役員に対し、「賞与」と印字された支給明細書を交付していたのは、従業員と同一の用紙を便宜上役員にも使用したというだけのことである。

五  主たる争点

原告が盆と暮れに役員に対して支給した金員は法人税法三五条四項の「賞与」に当たるか。

第三当裁判所の判断

一  本件法人税各処分の適法性について

1  前記争いのない事実等に、証拠(甲一、六ないし九、乙二ないし二四(枝番を含む。)、証人己、庚、丙、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下のとおりの事実が認められ、証人庚、丙及び原告代表者本人の各供述中以下の認定に反する部分は、前掲採用証拠に照らし信用することができず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告では、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対して報酬を支給するに際し、コンピューター処理の給料支給明細書と手書きの給料支払明細書が作成されていた。

コンピューター処理の給料支給明細書には、「基本給」欄に支給明細書役員報酬額が、「健康保険」、「厚生年金」、「所得税」及び「住民税」の各欄に支給明細書役員報酬額を基に計算された額が、「旅行積立」等の欄に当該控除額がそれぞれ記載され、「差引支給額」欄に支給額と控除額の差額が記されている。

また、手書きの給料支払明細書には、「基本給」欄に給料明細書役員報酬額が、「所得税」欄に給料明細書役員報酬額を基に計算された額が、「健康保険」、「厚生年金」、「住民税」及び「旅行積立」等の各欄にコンピューター処理の給料支給明細書と同額の控除額がそれぞれ記載され、「差引支給額」欄に支給額と控除額の差額が記されている。

しかし、コンピューター処理の給料支給明細書及び手書きの給料支払明細書のいずれにも、本件差額を控除した旨の記載、また、これを窮わせるべき記載はない。

(二) 原告では、当時の経理担当者である己が、本件係争各事業年度の別表九の「支払等年月日」欄記載の各年月日に、各役員に対し、手書きの給料支払明細書中の「差引支給額」欄記載の金額を、各役員の普通預金口座(以下「給料振込口座」という。)に振り込んでいた。

そして、その際、己から、各役員に対し、手書きの給料支払明細書が交付されていたが、コンピューター処理の給料支給明細書は交付されていなかった。

(三) 己は、本件係争各事業年度の各月において、右(二)のように各役員の給料振込口座に給料を振り込むとともに、平成五年五月分までは、各役員に係る本件差額の合計額と同額の金員を仮受金等に計上していたが、平成五年六月分からは、右金員を仮受金等に計上することをやめ、その代わりに、各役員ごとに本件差額と同額の金員を各役員名義の普通預金口座(以下「差額振込口座」という。)に振り込んでいた。

しかし、右仮受金等は、各役員ごとに管理されているものではなく、また、各役員名義の右差額振込口座は、いずれも平成五年六月二五日に、己が、原告代表者と相談の上、原告保管に係る各役員の印鑑を用いて開設し、その後も、原告によって通帳及び印鑑が保管されている。

(四) 原告では、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、従業員に対して賞与を支給し、また各役員に対して金員を支給するに際し、「役員社員盆賞与支給計算書」、「役員社員暮賞与支給計算書」と題する書面が作成されていた。

右書面には、「氏名」、「役職」、「年齢」、「勤続年数」、「勤務成績(『出勤日数』、『出勤率』、『有給』、『欠勤』及び『順位』)」、「所属長評点」、「総合評点」、「現行給料(『基本率』及び『固定率』)」、「直近二回の賞与支給額(『支給額』、『基本率』及び『固定率』)」並びに「社長決定額(『支給額』、『基本率』及び『固定率』)」の各欄がある。

そして、右書面には、「氏名」欄に各役員及び全従業員の氏名が記載されており、原告が盆と暮れに金員を支給するに当たり、己において、右書面のうち、「社長決定額」欄を除く、「勤務成績」、「現行給料」及び「直近二回の支給額」の各欄を記入した上、原告代表者が、右の記入を参考にしながら、実際に支給する金額を決め、これを「社長決定額」欄に記入して、己に右書面を返却し、これに従って己が金員を支給していた。

(五) 原告では、本件係争各事業年度において、別表九の「盆暮れ支払額」の項中の「支払等年月日」欄記載の各年月日に、己が、各役員に対し、盆暮れ支払額から当該金額を基に計算された源泉所得税額を控除した残額を各役員の給料振込口座に振り込んでいた。

そして、その際、各役員に対し、コンピューター処理の給料支給明細書が交付されていたが、右コンピューター処理の給料支給明細書には、「賞与」欄に盆暮れ支払額が、「所得税」欄に盆暮れ支払額を基に計算された源泉所得税額がそれぞれ記載され、「差引支給額」欄に支給額と控除額の差額が記されている。

しかし、右コンピューター処理の給料支給明細書には、盆暮れ支払額が本件差額の払戻しであることや、これを窮わせるべき記載はない。

(六) 盆暮れ支払額の支給状況は、別表九の本件係争各事業年度合計の項中の「盆暮れ支払額」欄記載のとおりである。

すなわち、平成二年四月期から平成五年四月期までにかけて、各期の本件差額の合計は、甲については七二〇万円、乙については二四九万六〇〇〇円、丙については二七九万六〇〇〇円、丁については一八〇万円、戊については八四万円(なお、戊は平成四年六月一九日に死亡したため、本件差額の計上は平成四年六月分までである。)であり、各役員に係る本件差額の合計額には変化がないが、各期の盆暮れ支払額の合計は、平成二年四月期から平成五年四月期までの順に、甲については六六〇万、六七〇万円、六八〇万円及び六九〇万円、乙については三二〇万、三三五万円、三六〇万円及び四〇〇万円、丙については三四〇万円、三五五万円、三七五万円及び四〇〇万円、丁については一九〇万円、二〇五万円、二一〇万円及び二一〇万円、戊については四〇万円、四〇万円、四五万円(なお、前記のとおり、戊は平成四年六月一九日に死亡したため、平成五年四月期における盆暮れ支払額の支給はない。)となっていて、盆暮れ支払額の合計額は年々増加しており、本件差額の合計と盆暮れ支払額の合計は連動していない。

また、右のとおり、甲及び戊については、本件差額の合計が盆暮れ支払額の合計を上回っているものの、乙、丙及び丁については、本件差額の合計が盆暮れ支払額の合計を下回っているのであって、各役員に係る本件差額の合計と盆暮れ支払額の合計は一致していない。

(七) 原告の昭和五二年一二月一〇日付け取締役会議事録には、役員報酬一部預託制度が可決承認された旨記載されている。

右制度の内容は、<1> 希望者役員の各月の役員月給の一部希望額を、自己の意思で月給支給時に天引きの方法により会社に預託する、<2> 制度の趣旨は、一部役員については、夏期及び冬季の従業員賞与時にそれまで会社に預託した役員報酬一部預託額を家庭に持ち帰りたいとの希望からできた制度で、会社も預託者本人の意思であることを尊重するもので、預託を強制するものではないこと、<3> 預託、払戻しの額及び時期は各役員の任意でできること、<4> 会社はこれを仮受金勘定で預り管理し、原則として無利息とすること、などというものである。

(八) 原告では、別表一〇のとおり、平成三年ないし平成五年の各七月及び各一二月に、各役員に対し、役員賞与を支給しているが、原告は、平成三年ないし平成五年の各四月期の法人税の確定申告に際し、右役員賞与の額を損金の額に算入していない。

2  原告は、本件係争各事業年度において、別表九の上段の、「合計金額」の欄のうちの「支給明細書役員報酬額」欄記載の額を各役員に対する役員報酬額に計上しているところ、これは、原告が、本件預託金制度に従い、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、支給明細書役員報酬(別表九の「支給明細書役員報酬額」欄記載の額の役員報酬)をいったん支給した後、各役員から、給料明細書役員報酬(同表の「給料明細書役員報酬額」欄記載の額の役員報酬)を超える額(同表の「差額」欄記載の額。これまでと同様に、「本件差額」と略称する。)を任意に預かるか、又は、支給明細書役員報酬の額から本件差額を天引きする方法で給料明細書役員報酬を支給した上、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、各役員に対し、本件差額をまとめて支給していたことから、各役員に対して毎月支給していた金員だけでなく、盆と暮れに支給した金員も、法人税法三五条四項の「賞与」には当たらないので、支給明細書役員報酬の額を損金の額に算入していたものである旨主張する。

しかしながら、原告が各役員に対して毎月支給していた報酬金額は、給料明細書役員報酬の額であることは当事者間に争いがないところ、前記1(一)ないし(三)に認定したとおり、原告では、本件係争各事業年度の各月に、己が、手書きの給料支払明細書中の「差引支給額」欄記載の額を各役員の給料振込口座に振り込んでいたが、その際、各役員には手書きの給料支払明細書のみが交付され、コンピューター処理の給料支給明細書は交付されていなかったこと、手書きの給料支払明細書には、給料明細書役員報酬の額と、これを基に計算された源泉所得税の額が記載されているだけであり、支給明細書役員報酬の額や、更には本件差額を控除した旨又はこれを窮わせる記載はないこと、己は、平成五年五月分までは、各役員に係る本件差額の合計額と同額の金員を仮受金等に計上していたが、右仮受金等は、各役員ごとに管理されているものではなかったこと、平成五年六月分からは、右金員を仮受金等に計上することをやめ、その代わりに、各役員ごとに本件差額と同額の金員を各役員名義の差額振込口座に振り込んでいたが、各役員名義の右差額振込口座は、いずれも己が原告代表者と相談の上、原告保管に係る各役員の印鑑を用いて開設し、その後も、これらの通帳及び印鑑は原告において保管し管理していることなどの諸事実にかんがみると、原告が、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、支給明細書役員報酬をいったん支給した後、各役員から、本件差額を任意に預かるか、又は、各役員に対し、支給明細書役員報酬の額から本件差額を天引きする方法で給料明細書役員報酬を支給していたものとみることは、甚だ困難といわざるを得ない。

この点について、原告は、各役員につき、コンピューター処理の給料支給明細書を作成し、右明細書には、支給明細書役員報酬の額が記載されており、また、手書きの給料支払明細書は、各役員が本件差額を任意に支払うなどした後、実際の手取り額を確認するために便宜上作成されていたものにすぎないと主張する。

しかし、前記1(二)に判示したとおり、各役員に対して、コンピューター処理の給料支給明細書が交付されていた事実はないと認められ、各役員としては、コンピューター処理の給料支給明細書の交付を受けない限り、支給明細書役員報酬の額がいくらであるのか、したがって、本件差額がいくらであるのかを知ることはできないのであるから、手書きの給料支払明細書が実際の手取り額を確認するため便宜上作成交付されたものと解することもできない。

3  また、前記1(四)認定のとおり、原告では、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月において、「役員社員盆賞与支給計算書」及び「役員社員暮賞与支給計算書」と題する書面が作成されていたこと、右書面には、「氏名」欄に各役員及び全従業員の氏名が記載されており、原告が盆と暮れに金員を支給するに当たり、己において、右書面のうち、「社長決定額」欄を除く部分を記入した上、原告代表者が、実際に支給する金額を決めて「社長決定額」欄に記入していたこと、また、同じく前記1(五)及び(六)認定のとおり、原告では、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、己が、各役員に対し、盆暮れ支払額から当該金額を基に計算された源泉所得税額を控除した残額を各役員の給料振込口座に振り込んでいたが、その際、コンピューター処理の給料支給明細書が交付されていたこと、しかし、右コンピューター処理の給料支給明細書には、盆暮れ支払額と、これを基に計算された源泉所得税額が記載されているだけであり、盆暮れ支払額が本件差額の払戻しである旨あるいはこれを窮わせるべき記載はないこと、平成二年四月期から平成五年四月期までにかけて、各役員に係る本件差額の合計に変化はないにもかかわらず、盆暮れ支払額の合計は年々増加しているなど、本件差額の合計と盆暮れ支払額の合計は連動しておらず、また、各役員に係る本件差額の合計と盆暮れ支払額の合計は同額ではなく、役員によっては、盆と暮れに、本件差額の積立額を超える額の金員を支給されていた者もいれば、逆に、右積立額に満たない額の金員しか支給されなかった者もいること、これらの事実に照らして勘案してみると、原告が盆と暮れに各役員に対して支給した金員は、原告代表者が、原告の収益状況や各役員に対する評価に基づいてその支払額を決定していたことが明らかというべきである。したがって、原告が、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、各役員に対し、まとめて本件差額を払い戻していたとは認められない。

この点について、原告は、「役員社員賞与支給計算書」と題する書面の右の記載は、原告代表者が各役員の賞与の額を査定したことを示すものではなく、本件差額の積立額に各役員の出張旅費を上乗せしたものにすぎないと主張する。しかし、出張旅費はその都度精算されるのが通常と考えられるところ、証人己の供述によれば、原告においても、出張旅費の精算は、常務取締役及び専務取締役については、出張前に旅費を仮払いした上、出張後に旅費を精算し、代表取締役については、出張後に旅費を精算していたことが認められるから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、盆と暮れに各役員に対して支給した金員の額が、各役員が毎月預託していた金額と完全には一致していないことについて、本件差額の積立額を超える額の金員を盆と暮れに支給されていた役員については、当該役員が出張旅費を加算されていたにすぎず、逆に、右積立額に満たない額の金員しか盆と暮れに支給されなかった役員については、当該役員が原告の商品を自家消費した分を差し引いたからであると主張する。しかし、原告が盆と暮れに各役員に対して金員を支給するに際し、出張旅費を加算していたものとは認められないことは右に判示したとおりであり、また、証人己の供述によれば、原告の商品を自家消費した場合の後日精算の方法としては、各月の給料から天引のみであったことが認められ、これらの事実に照らしてみると、原告の右説明も採用することができない。

さらに、原告は、盆と暮れに各役員に対して支給した金員の額は、預託金額にほぼ一致しているとも主張するが、前記1(六)認定の事実によれば、平成二年四月期から平成五年四月期までにかけて、各期の本件差額の合計と盆暮れ支払額との開きは、最も大きい者で一五〇万四〇〇〇円に上る(平成五年四月期の乙)のであり、多少の誤差というにとどまらない金額の差があるというべきである。したがって、原告の右主張も採用できない。

4  そうすると、原告は、本件係争各事業年度の各月において、各役員に対し、支給明細書役員報酬をいったん支給した後、各役員から、本件差額を任意に預かるか、又は、支給明細書役員報酬の額から本件差額を天引きする方法で給料明細書役員報酬を支給したものとは認められず、また、原告が盆と暮れに各役員に対して支給した金員も、原告が、本件係争各事業年度の各七月及び各一二月に、各役員に対し、まとめて本件差額を払い戻したものとは認められず、原告代表者が、原告の収益状況等を考慮した上で、その金額を決定していたものと認められるから、原告が盆と暮れに役員に対して支給した金員は法人税法三五条四項の「賞与」に当たるというべきである。

なお、原告は、本件預託金制度の導入に至る経緯等に加えて、これまでにも役員からの請求に基づき、盆と暮れ以外に預託金が払い戻された事実があること、原告では、本件預託金制度とは別に、利益金処分としての役員賞与の支給も現実に行われていることを指摘して、原告が盆と暮れに役員に対して支給した金員は法人税法三五条四項の「賞与」に当たらないと主張する。確かに、前記1(七)に認定したとおり、原告の昭和五二年一二月一〇日付け取締役会議事録には、本件預託金制度が可決承認された旨記載されていることが認められるところ、仮に昭和五二年に本件預託金制度が導入された経緯が原告主張のとおりであって、原告主張に係る昭和六〇年代ころに役員からの請求に基づいて盆と暮れ以外に預託金が払い戻された事実があるとしても、既に認定説示したとおり、本件係争各事業年度においては、本件預託金制度は、右取締役会決議の内容に従って運用されていたとは到底認められないといわざるを得ない。また、前記1(八)に認定したように、原告は、別表一〇のとおり、平成三年ないし平成五年の各七月及び各一二月に、各役員に対し、役員賞与を支給しているところ、平成三年ないし平成五年の各四月期の法人税の確定申告に際し、右役員賞与の額を損金の額に算入していないことが認められるが、利益金処分としての役員賞与の支給があることから、盆と暮れに支給された金員が直ちに「賞与」に当たらないということができないのもまた明らかである。

よって、本件預託金制度の存在を前提とする原告の各主張はいずれも採用できない。

5  したがって、原告が、本件係争各事業年度において、損金の額に算入した役員報酬のうち、給料明細書役員報酬の額の合計総額を超える部分を損金の額に算入することは認められない。

6  以上によれば、原告の本件係争各事業年度の所得金額は、別表五のとおり、いずれも更正処分に係る所得金額と同額となるから、前記第二、二1(一)のとおりになされた本件係争各事業年度の法人税の各更正処分は、いずれも適法である。

また、これに伴い前記第二、二1(二)のとおりになされた本件係争各事業年度の重加算税の各賦課決定処分も、同様に適法である。

さらに、前記第二、二1(三)のとおりになされた平成六年四月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分も、同様に適法である(なお、原告は、右法人税の過少申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求をしていないが、右法人税の更正処分に対する審査請求をしたことにより、右賦課決定処分も併せてその是正を期待したことが推認されるから、国税通則法一一五条一項三号の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に当たるものとして、同項の審査請求手続の前置に欠けるところはないと解される。)。

二  本件法人臨時特別税処分の適法性について

前記第三、一のとおり、平成三年四月期の法人税の更正処分は適法であるから、前記第二、二2(一)のとおりになされた平成三年四月期の法人臨時特別税の更正処分は、適法である。

また、これに伴い前記第二、二2(二)のとおりになされた平成三年四月期の法人臨時特別税の重加算税の賦課決定処分も、同様に適法である。

三  本件法人特別税各処分の適法性について

前記第三、一のとおり、平成四年及び平成五年の四月期の法人税の更正処分はいずれも適法であるから、前記第二、二3(一)のとおりになされた平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税の各更正処分は、いずれも適法である。

また、これに伴い前記第二、二3(二)のとおりになされた平成四年及び平成五年の各四月期の法人特別税の重加算税の各賦課決定処分も、同様に適法である。

四  本件源泉所得税各処分の適法性について

前記第三、一のとおり、原告が平成三年ないし平成五年の各七月及び各一二月に各役員に対して支給した金員は法人税法三五条四項の「賞与」に当たるから、前記第二、二4(一)のとおりになされた平成三年ないし平成五年の各七月分及び各一二月分の源泉所得税の各納税告知処分は、いずれも適法である。

また、これに伴い前記第二、二4(二)のとおりになされた平成三年ないし平成五年の各七月分及び各一二月分の源泉所得税の不納付加算税の各賦課決定処分も、同様に適法である。

五  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村直文 裁判官 倉澤千巌 裁判官 中川博文)

別表一の1 本件課税処分の経緯(平成二年四月期分法人税)

<省略>

別表一の2 本件課税処分の経緯(平成三年四月期分法人税)

<省略>

別表一の3 本件課税処分の経緯(平成四年四月期分法人税)

<省略>

別表一の4 本件課税処分の経緯(平成五年四月期分法人税)

<省略>

別表一の5 本件課税処分の経緯(平成六年四月期分法人税)

<省略>

別表二 本件課税処分の経緯(平成三年四月期分法人臨時特別税)

<省略>

別表三の1 本件課税処分の経緯(平成四年四月期分法人特別税)

<省略>

別表三の2 本件課税処分の経緯(平成五年四月期分法人特別税)

<省略>

別表四 本件課税処分の経緯(平成三年ないし平成五年の各七月分及び一二月分の源泉所得税)

<省略>

別表五 被告主張額計算表(法人税)

<省略>

別表六 確定申告に係る役員報酬額

<省略>

別表七の1 平成2年4月期の実際の役員報酬額

<省略>

別表七の2 平成3年4月期の実際の役員報酬額

<省略>

別表七の3 平成4年4月期の実際の役員報酬額

<省略>

別表七の4 平成5年4月期の実際の役員報酬額

<省略>

別表七の5 平成6年4月期の実際の役員報酬額

<省略>

別表八 水増し役員報酬額

<省略>

別表九 (1) 平成2年4月期の役員報酬等の支給状況等

<省略>

<省略>

(2) 平成3年4月期の役員報酬等の支給状況等

<省略>

<省略>

(3) 平成4年4月期の役員報酬等の支給状況等

<省略>

<省略>

(4) 平成5年4月期の役員報酬等の支給状況等

<省略>

<省略>

(5) 平成6年4月期の役員報酬等の支給状況等

<省略>

<省略>

別表一〇 役員らに対する役員賞与支給額

<省略>

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